Satsuma味とは –温州みかんとクリスマスと-

Satsuma味とは



令和5年の梅雨。
島津家の別邸・仙巌園では、梅雨の間にご来園くださった方々に対して「島津飴」をお配りしました。
これは、島津家初代忠久公が「雨の降る中、狐火に守られながら生まれた」という故事から、「鹿児島では雨が降ることを吉祥のおしるしとして喜ぶ、島津雨という言葉がある」ということを、多くの方々に知って頂きたいと考案されたサービスです。


🌸説話については、過去の記事をご覧ください。https://www.shuseikan.jp/article/%e5%85%ab%e6%99%af%e9%87%9c/


当園に足をお運びくださった皆様に「雨(あめ)」と「飴(あめ)」のユーモアで、少しでも笑顔になっていただけたら、嬉しく思います。



さて、この取り組みをSNSで「味のヒントは…Satsuma😊」と発表したところ、
「からいも(サツマイモ)味かな?」「黒糖?桜島小みかんかな?」
といった反応が寄せられました。
日本の歴史や文化をお好きな方であればあるほど、「薩摩」から地名や歴史をイメージされたようです。



実はこちらの味は、温州みかん味です!
ヨーロッパやアメリカでは、温州みかんが「Satsuma」の名前で売られています。



温州みかんについて

まず、温州みかんについてご説明します。
温州は「うんしゅう」と読みます。中国を代表する美味しい柑橘類の産地・温州市にあやかった名前のようです。名前から中国原産と思われがちですが、温州みかんは日本原産の品種です。



江戸時代の終わり、ドイツ人医師シーボルトが温州みかんの腊葉標本(押し葉)を作り、これにNagashima(ながしま)と記していたことから、鹿児島県の長島付近が原産地と考えられています。長島町には現在、みかんの博物館・日本マンダリンセンターもあり、ここでは歴史や栽培技術などを学ぶことができますよ!



近年ではDNA解析の結果から、温州みかんは、紀州みかんとクネンボ/九年母(東南アジア原産の柑橘類で、室町時代後期に琉球経由で日本に入った)の組み合わせで発生したことが分かりました。さらに、新しい品種なども次々に生み出されています。みかんの世界は奥深いですね。



果実としての特徴は、皮がうすく、種がなく、糖度が高いことです。 日本において「冬、こたつでみかん」を思い浮かべたときの、一般的なイメージのみかんです。



みかんのことは「Satsuma」ではなく、英語で「Orange」と呼ぶのでは、と疑問をお持ちかもしれません。
Satsuma(Satsuma mandarinやSatsuma orangeとも書きます)は、どれも甘い「温州みかん」「みかん」のことです。
香りが華やかで、皮が厚く、酸味がつよいOrangeとは違う種類を指しています。



なぜ、Satsumaというのか

なぜ、温州みかんを「Satsuma」と呼ぶのでしょうか。
理由はいくつか伝わっています。
薩英戦争後に友好の証として薩摩藩がイギリスに贈ったという説や、薩摩藩英国留学生に関係しているのではという説、
他にもいくつかの説を目にしました。



記録として詳細に残っているのは、
アメリカから日本に来ていた駐日弁理公使ヴァン・ヴァルケンバーグ氏によって、明治11年(1878)に薩摩産の苗木がフロリダにもたらされ、その夫人の命名によって英名がSatsumaになったという説です。
薩摩の苗木が、世界に飛び出した瞬間ということですね!



世界のさつま

アメリカには「SATSUMA」という地名が4カ所あります。
温州みかん(Satsuma)の産地であるアラバマをはじめ、ルイジアナ州、テキサス州、フロリダ州です。現在はそうではない場所もありますが、かつてはどこもSatsumaの産地だったようです。
それぞれに、街の名前を冠した学校や公民館、コンサートホールなどがありますので、鹿児島県から遠く離れた場所に「さつま高校」や「さつま公民館」などが存在しています。



さつまとクリスマス

イギリス出身の知り合いに「Satsumaは、どういうときに食べるのですか」と聞いたことがあります。
その方は「高級なフルーツだから、クリスマスやお祝いのときに食べるというイメージです」と教えてくれました。



そういえば、
世界的な児童文学『ハリー・ポッター(J. K. Rowling)』にも、クリスマスの場面でSatsumaが登場します。『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の第16章「A Very Frosty Christmas」で、主人公のハリーが、友人のロン・ウィーズリーの家でクリスマスを過ごすのですが、そこでのロンの両親の会話(様子)です。






‘ We danced to this when we were eighteen!’
Said Mrs Weasley,wiping her eyes on her knitting.
‘ Do you remember, Arthur? ’
‘ Mphf? ’ said Mr Weasley, whose head had been nodding over the satsuma he was peeling.
‘ Oh yes…marvellous tune…



「18歳のとき、私たちはこの曲でダンスを踊ったわ」と言いながら、ウィーズリー婦人は編み物で目を拭いました。
「あなた、おぼえている?」
「むむ…?」サツマの皮をむきながら、うつらうつらしていたおじさんが言いました。

「あぁ、そうだね…すばらしい曲だ…」






昔を懐かしむシーンで、小道具としてSatsumaが登場しています。





世界中でこれからもSatsumaが愛されていくことで、「薩摩」を知って頂くきっかけになれば嬉しいですね。



【投稿】 2023年6月20日



小平田 史穂

小平田 史穂

尚古集成館学芸員
鹿児島大学法文学部卒業。
放送大学非常勤講師 等
南日本文学賞詩部門受賞。
鹿児島県文化芸術振興審議会委員

著作
『みんなの西郷さん』
『復刻版 炉辺南国記』尚古集成館、山形屋にて販売

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